中国に進出を果たした日系企業にとって、日中ビジネスに関するサクセスストーリーは大いに参考になると考えられますが、数々の HOW TO 本・中国ビジネスに関する解説書は比較的容易に入手できる現状があります。 入手し難い情報としては、真実味のある苦労話・失敗談ではないかと考えております。私共リンクスタッフでは日系企業の経営陣・マネジメント層の方々に毎月1人ずつ登場頂き、日本では考えられないような問題に突き当たった経験談を中心にお話をお伺いし、その実情に迫っていきます。
第8回目の今月は 株式会社熊木商会の代表取締役 熊木隆雄 さんへのインタビューです。 前回までは中国現地法人で活躍されている方々にお話を伺ってきましたが、日本法人でありながらも中国とのビジネスを展開し、日本と中国のギャップに苦労されているケースは存在します。ガスライター、オイルライター、ディスポーザブルライターなどの喫煙具を扱っている株式会社熊木商会は、2000年7月より中国での製造・輸入〜日本国内での販売をスタートさせました。中国での生産開始・価格交渉、新商品の仕様打ち合わせなど、日本企業でありながらも中国と密接に結びついた事業を展開する株式会社熊木商会の代表取締役 熊木隆雄さんにお話を伺いました。
〜中国での工場探し〜 大学卒業後、約15年間勤務した喫煙具メーカーを脱サラしこの会社を始めたのは1986年のことでした。当初は日本国内で製造したものを日本国内で販売するというスタイルで事業を進めてきました。中国とのかかわりは2000年からです。友人が上海で縫製関係の合弁会社を設立することになったのですが、その際に中国でライターを製造している業者を探して欲しいと依頼したことがきっかけです。前職の同僚や商社関係の知り合いの方からの情報を集めて、ライターの製造工場が多いといわれていた中国・温州を始めて訪れたのが、2000年1月のことでした。 工場探しに当たって優先したものは、品質・デザイン・価格の順でした。当社では主にコンビニエンスストアに流通させる商品の製造を中国工場に任せようとの考えを持っていたのですが、コンビニエンスストアでは、ライターは危険物と判断しているため不良品には非常に細かいチェックがなされます。事故でも起きようものなら即取引停止にまで発展します。価格も当然ながら重要ですが、まず品質第一を基本として工場探しを行いました。 温州には600社から700社のライター工場がありますが、その中から日本向けの商品を製造できる工場を探すのは本当に大変でした。品質を重視すると製造・組立てには当然ながら手間が掛かります。品質を維持するために細かい要求を出すわけですが、彼らの反応は「そんなことをしていたら生産量が落ちる」「そこまでしなくても商品として使える」「今のやり方でウチは十分に利益が出ている」という言葉が大多数でした。「ここで作ったライターが万が一爆発事故を起こしたらどうするのか?」という質問に対しても彼らは異口同音に「それは使った人間の責任だ」と答えます。工場から出荷してしまえば仕事は完結するとの考えが主流で、製造者責任という認識が全くありませんから・・・。いくら説明しても進展がないケースを何度も経験しました。メッキ技術のチェックやアルマイト工場、塗装工場などの関連施設の見学なども行い、デザイン・仕様の打ち合わせを終え、なんとか発注に辿り着いたのは6ヵ月後の2000年6月のことでした。こんなに長く掛かるとはさすがに予想できませんでした。現在、当社では4〜5社とのお付き合いがありますが、日本向けの仕事が出来る工場は温州地域全体でも20社前後だと思います。 温州は「温州商人」という言葉があるくらいお金に執着してきます。ですが、我が社のポリシーは、品質、デザイン、最後に価格です。技術面の向上を含め、現在は当社との取引を感謝していただいているという実感が持てるようになりました。 発注から1ヵ月後の初出荷でもトラブルはありました。船の運航と台風が重なり、着いていなければならない船が到着しない。こちらから何度も問い合わせの連絡を行った結果、船は寧波で停滞中・・・。初出荷の時だけに焦りましたね。事情が事情だっただけに顧客には理解していただくことができましたが、日本なら当然入る事前連絡が中国ではこちらから聞かなければ分からない、この点でも洗礼を浴びたような記憶が残っています。
〜仕事が増える=苦労が増える!?〜 当社ではライターを組み立てる工場に、組立て工程における作業指示書を作成して渡します。その内容は至って簡単で、この点に気をつけなさい、という注意書きです。渡すだけでなく実際に作業を見せることもあります。ここまでやることでミスは減ります。 出来映えに満足して追加発注を行います。驚くのはこの後で、前回行った作業指示書はどこかに消え去っていて跡形もありません。もちろん作業者の頭の中にもほとんど残っていません。工場が忙しいせいもあるんでしょうが、唖然としましたね・・・。仕事を依頼すればするほどこちらの仕事も増えるのか、そんな感想を持った時期もありました。中国では、一度やったから大丈夫というのは絶対にないですね。10回やろうとも、毎回同じ作業指示書を作成しなければなりません。このことが分かってしまえば、2回目以降は対応の仕方はありますが。 現在、同業他社さんでは上海や温州に検品工場を作って、そこで検品してから日本へ出荷しているケースがほとんどです。先にも話しましたが当社では品質を一番重視しています。よって大きな発注のときは、出荷前の立会い検品のために中国に行っています。日本に入ってから不良が分かったのでは、遅いですから。しかしながら輸送途中に品質にかかわる何かが起こっている可能性もゼロではないと考えています。ですから当社では日本に入荷後も、日本人の手によって全品検品を実施しています。おそらく我が社だけなのではないかと思いますが・・・。このことも厳しく言えば中国側の品質意識の欠如に多少は起因していると思っています。商品の販売価格に少なからず影響する作業ですから、中国側の製造責任が万全であれば「商売」の観点からすると省きたくなる作業とも言えますので。どのくらい大変な作業かという一例をあげてみます。ボタン電池が内蔵された「光るライター」があります。工場から出荷する時点では問題なく光っていても輸送途中に電池が切れてしまうことがあります。安全とは無関係ですが品質には関係します。 これにはライター1本につき3個のボタン電池が使用されています。当社では、このボタン電池一つ一つの電圧検査をしています。ライター1本に付きボタン電池3個ですから相当の量ですよ。 仕事が増えることで苦労も増えるのが現状ですが、当社のポリシーはまだまだ貫きたいと考えている次第です。
〜今後の展望〜 2000年の中国初訪問から5年以上が経過しました。これまでは上海などで通訳さんを雇い、温州へ同行させていました。1回1回全く別人の通訳さんという訳ではありませんが、ライターのことに関してはやはり素人さんです。普段の私を見ているという訳でもないので、自分の言いたいことを100%伝えてもらうのが困難なケースもあります。そこで今年からは日本で勤務していただける中国人を採用することにしました。単なる通訳としてだけの業務ではなく、日本から中国への連絡窓口として、また営業のアシスタントとして、さらに確認に時間のかかる納期のPUSHや様々なやり取りを私に変わって行ってくれる人材になって欲しいと思って教育中です。 従業員は4名の会社ですがお蔭様で業績はそこそこです。ただ、私としては日本国内での営業活動にももっと力を入れたいですし、 デザインが複雑化する中で新たなヒット商品を生み出していきたいとも思っています(今までにも累計100万本突破の商品あり)。そうすることがお付き合いのある中国工場の技術的な発展に繋がることは間違いないですし、日本向けの細かい要求に応えられるという彼らのステイタスにも通じるものと考えています。毎回毎回、細かい勝手な要求ばかりをする私に付き合ってくれる恩返しになれば嬉しいですね。 私の中国語ですか?・・・工場の中では何とか通じるようですが、一歩外の出ると駄目ですね。 きっと工場の人たちが私の中国語をなんとか解読してくれているのだと思います(笑い)。
(終)